長崎地方裁判所 昭和37年(わ)402号 判決 1962年12月06日
被告人 吉村順喜
明三四・一一・二一生 無職
主文
被告人を懲役八月に処する。
但し、本裁判確定の日から弐年間右刑の執行を猶予する。
本件公訴事実中証人威迫の点は無罪。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一、昭和三七年八月三〇日頃の午後一〇時頃、長崎県西彼杵郡崎戸町所在の三菱鉱業株式会社崎戸鉱業所第三倉庫前ケーブル線置場において、同鉱業所長白土進の管理にかかる同会社所有の鋼帯鎧装ケーブル線二八メートル位(時価約二八、〇〇〇円相当)を窃取し、
第二、同年九月一〇日午前一時頃、前同所において、前同人管理にかかる前同会社所有の前同ケーブル線六五メートル位(時価約六五、〇〇〇円相当)を窃取し
たものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
法律を適用すると、被告人の判示所為は各刑法第二三五条に該当し、右は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条第一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内で被告人を懲役八月に処するが、諸般の事情にかんがみ同法第二五条第一項により本裁判確定の日から弐年間右刑の執行を猶予する。
本件公訴事実中「昭和三七年九月一〇日午前九時頃、右(判示第二の事実)窃取したケーブル線を同町土井の浦山中において切断していた現場を同鉱業所資材課員松尾三郎から現認され同人が右事実を同鉱業所勤労課及び警察官に申告したため自己が該窃盗事件の被疑者として捜査されていることを聞知するやこれに憤激し翌九月一一日午后一時二五分頃、同郡大島町中戸、酒類販売店崎山イキ方公衆電話にて同鉱業所資材課事務所の電話口に右松尾三郎を呼び出し同人に対し『昨日俺があれだけ内証にしてくれと頼んだのに何故喋つたか、それでも男か、お前にはお世話になつたから午后八時に出て来い、場所はどこでもよい、お前が決めろ、お前が警察、警察と言うなら午后八時とは言はん今から直ぐ来るけんそこに待つとけ』等と申向けもつて自己の窃盗事件の捜査に必要な知識を有する同人に対し故なく面会を強請し強談威迫を為した。」との訴因(起訴は面会の強請のみである)については証人松尾三郎の当公判廷における証言、同人の司法警察員に対する供述調書(昭和三七年九月一三日付)、松川君雄、崎山イキの各司法警察員に対する供述調書、被告人の当公判廷における供述などによれば、右起訴にかかる事実はこれを認めるに充分であるが、刑法第一〇五条の二にいう「面会の強請」とは、直接その相手方に対し、言語、挙動等を示して、強いて面会を求める場合をさし、電話、文書、使者等により間接的に面会を求める場合までは包含しないと解すべきである。してみれば、電話を通じて間接的に為した被告人の右所為は「罪とならない」ものであるから刑事訴訟法第三三六条に則りこの点につき無罪の言渡をする。
よつて主文の通り判決する。
(裁判官 秋吉重臣)